桂枝茯苓丸:処方名の不思議???
研究会
一般的に桂枝茯苓丸は、何に使うのか?
このような問いに対して、
子宮筋腫に使うと言う答えが、
多いのではないだろうか?
中医学においては、子宮筋腫を瘀血と捉える。
そこで瘀血を解消する手立てとして、
化瘀の薬物として、桃仁・牡丹皮・芍薬(赤)を
用いて治療にあたる。
ここまでは、中医学のシナリオである。
そこで、桂枝茯苓丸の組成を見ると、
桃仁・牡丹皮・芍薬 + 桂枝・茯苓 である。
桂枝茯苓丸が瘀血を解消するファーストチョイス
の処方であるならば、
主薬(君薬)は桃仁・牡丹皮・芍薬になる。
ところが、
処方名は主薬(君薬)になる薬物ではなく、
脇薬(臣薬)の桂枝と茯苓なのである。
これは不思議な事ではないだろうか?
この不思議について、
書かれたものを見たことが無いのは、
勉強不足なのであろうか。
それでは、出典を見てみよう。
『金匱要略・婦人妊娠病』
「婦人、宿癥病あり、経断ちて未だ三月に及ばず、
而も漏下を得て止まず、胎動きて臍上に在る者は
癥痼妊娠を害すと為す。
血止まざる所以の者は、其の癥去らざるが故なり。
当に其の癥を下すべし、桂枝茯苓丸之を主る。」
「癥病」とは、腹の中にある塊のことを指す。
この塊を子宮筋腫に当てたのだと思う。
そこで、桂枝茯苓丸になるわけでる。
出典が金匱要略の婦人妊娠病編になるので、
やはり婦人病に使う事となる。
『漢方診療のレッスン』を見てみてみよう。
本書において桂枝茯苓丸は,
どのように使われているのか。
やはり、月経異常・月経困難症・子宮筋腫に
用いられている。
題名にある桂枝茯苓丸の処方名の不思議に
戻ってみよう。
金匱要略・婦人妊娠病における癥病、
漢方診療のレッスンにおける子宮筋腫、
やはり瘀血を示唆している。
そうであるならば、
桃仁・牡丹皮・芍薬がメインであり、
君薬にならなければおかしい。
例えば、
麻黄湯は、麻黄が君薬であり、
葛根湯は、葛根が君薬になる。
そうすると、
桂枝茯苓丸は、桂枝と茯苓が君薬に
なるべきである。
そこで思い出すのが、東洞の言葉である。
桂枝茯苓丸の解説として、
「是れ唯婦人の病を治するの方にあらざるなり」と。
婦人の専らの処方ではなく、男性にも使う事が
あるのですよと。
張仲景は、桂枝茯苓丸の君薬を、
桂枝と茯苓にした。
そして、東堂の言葉を噛み締めて見ると、
本来の桂枝茯苓丸の使い方が見えてくる。
君薬より、桂枝茯苓丸は苓桂剤と考えれば
よいのである。
経方理論では、胎動を奔豚と捉える。
すなわち上衝である。
そして、臍下悸、小便不利、腹痛、
経水調わずに用いる。
江戸中期〜後期の漢方医は、
臨床において桂枝茯苓丸を苓桂剤として、
男女問わず幅広く使っていたのである。
実際の臨床において、
検証して見る事がとても
重要なのである。
Lab collage
漢方 コラージュ 代官山
戸田一成
代官山 東京