コラム

後縦靭帯骨化症に伴う痛み・痺れ。気象病との関係。

コラム

63歳のAさんが、整形外科にて指定難病

である後縦靭帯骨化症の診断を受けました。

リリカと鎮痛剤を処方されていますが、

痛みと痺れがコントロールできていません。

そこで漢方薬で症状の軽減ができないかと、

相談に来られました。

Aさんは男性で、身長166cm体重78kgで

筋肉質でガッチリした印象を受けます。

 

まず、整形外科では後縦靭帯骨化症を

どのような病態と捉えているのでしょうか?

・概要について

後縦靱帯骨化症は、脊椎椎体の後縁を

連結し、脊柱のほぼ全長を縦走する

後縦靱帯が骨化することにより、脊椎管狭窄

を来し、脊髄又は神経根の圧迫障害を来す疾患

であります。

頸椎に最も多いが、胸椎や腰椎にも生じます。

後縦靱帯骨化症患者では、前縦靱帯骨化を

中心として、広汎に脊柱靱帯骨化を来す

強直性脊椎骨増殖症を約40%に合併し、

また黄色靱帯骨化や棘上靱帯骨化の合併も

多く、脊椎靱帯骨化の一部分症として捉える

考えもあります。

・治療法

保存的治療として、局所の安静保持を図るために、

頸椎装具の装着や薬物療法が行われます。

保存的治療で効果が得られない場合や、

脊髄症状が明らかな症例には手術療法が行われます。

頸椎後縦靱帯骨化症では、後方からの椎弓形成術が

選択されることが多いが、骨化が大きく椎弓形成術

による脊髄後方シフトでは脊髄の圧迫が解除されない

症例や、脊椎のアライメントが不良な症例では、

前方除圧固定が選択されます。

胸椎後縦靱帯骨化症の外科的治療では高位や

骨化の形態(嘴状又は台形)に応じて、後方、

前方又は前方+後方などを選択し、固定の併用を

要する症例も多いです。

特に後弯部の嘴状の症例は脊髄麻痺のリスクが

高く、脊髄モニタリングや術中エコーの併用も

考慮すべきであります。

整形外科においては、このように考えています。

 

整形外科診断名・後縦靭帯骨化症を漢方的に

解釈すると以下のようになります。

Aさんの主訴

・両手指の痛みとしびれで、夜も眠れない

・後頸部から肩にかけての痛み

・足先の痺れ

・梅雨時など手足が浮腫む

現在は両手指の痛み・痺れが強く夜も良く

眠れない。

痛みのレベルを数値化して確認すると、

現在が最も痛くて辛く10段階中10のレベル

である。

まず漢方薬を処方する前にAさんには、

次のような説明をした。

現在身体において起きている器質的病変を

漢方薬で改善する事はできない。

但し諸条件において痛み・痺れの程度を

軽減する事には有効と思われる。

このような説明をして、Aさんの納得が得られた

事を確認して漢方治療を始めることとした。

 

Aさんの手指の痛み・痺れの増悪要因

・気圧が下がり、雨の降る前が一番酷い。

(気象病に伴う痛み・痺れ)

Aさんの手指の痛み・痺れの軽減要因

・天気が安定して高気圧が続く事。

・お風呂で湯船に使っている時。

 

このような条件で症状が増悪したり軽減

する事が分かります。。

Aさんの痛み・痺れは、正しく気象病です。

Aさんにとっては、気圧が下がり湿度が上昇

する事に対してどれだけ漢方薬で対応できる

かが症状の軽減の鍵となります。。

『傷寒論』と言う書籍にこのような場合に

対応する条文があります。。

『注解傷寒論』の174条に、「傷寒八九日にして、

風湿相搏ち、身体疼煩し、自ら転側能わず、

嘔せず、渇せず、脈浮虚にして濇の者は、

桂枝附子湯之を主る。」とあります。。

「風湿相搏」とは、風が吹いて則気圧が下がり、

湿度が上昇する事、気象病を意味します。

そして、「身体疼煩、不能自転側」とは、身体が

痛み体を動かす事もできない状態です。

このような場合に、桂枝附子湯を投与しないさい

と書かれています。

この条文は当にAさんの病態にあてはまります。

『注解傷寒論』174条の後、175条にもっと痛みが

強い場合に適応する条文があります。

175条「風湿相搏ち、骨節煩疼し、掣痛して

屈伸を得ず、之を近づければ則痛み劇しく、

汗出短気し、小便不利し、悪風して衣去るを

欲せず、或いは身微かに腫れる者は、

甘草附子湯之を主る。」とあります。

174条も175条も「風湿相搏」ですから、気圧が

下がり痛みとなる気象病としての条件は同じです。

ところが痛みの程度が異なります。

174条は「身体疼痛」が175条では「骨節煩疼、

掣痛而不得屈伸、近之則痛劇」となり、

175条の方がはるかに痛みが強いときに適応

になる事が分かります。

ここで174条の桂枝附子湯、または175条の

甘草附子湯、どちらがAさんの適応になるのか?

ここがポイントになります。

Aさんの「手指の痛みで夜も眠れない」状況から

しますと175条の甘草附子湯になります。

174条の桂枝附子湯と175条の甘草附子湯を

用いる鑑別は、身体の筋肉量の差なのです。

最初に記載しましたAさんの身長・体重と

ガッチリした筋肉質の体形より、Aさんは

175条の甘草附子湯が適応になります。

気象病に伴う痛み・痺れであっても、

筋肉量の少ない女性の方ですと、

甘草附子湯は適応にならないと言えます。

整形外科における診断名は後縦靭帯骨化症

でしたが、漢方で考える診断名は、

「気象病に伴う痛み・痺れ」になります。

 

そこでAさんには、甘草附子湯を服用して

頂きました。三ヶ月間服用した頃より、

手指の痛み・痺れが軽減し始めました。

一番痛み・痺れが辛かったときのレベルが10/10

とすると、現在は7/10のレベルに軽減しました。

ところがアクシデントが起こります。

大型の台風が近づいて来ました。気圧がいつもより

30hPa下がりました。痛み・痺れが10/10レベルに

増悪し、左の腕がまるたんぼうのように浮腫んで

しまいました。過去にもこのような事があった

そうです。

この現象を漢方では、次のように考えます。

気圧が急激に下がりますと、体内の70%を占める

水は体表に向かいます。特に筋肉に保持されている

水が体表に溶け出るかのように浮腫みとして

現れます。この体内の水の偏在を、漢方では

「痰飲の関係」と解釈しています。

翌日になりますと台風も去り気圧が戻り、

そうしますと浮腫みは消失しました。

但し、腕のまるたんぼうのような浮腫みが

消失していく過程では、排尿の量に変化は

ありませんでした。浮腫みの消失は、体外に

水が出たのではないのです。

体内に水の偏在が起こったと漢方では、解釈

するのです。そこで水の偏在を解消するのに、

甘草附子湯に蒼朮・茯苓・沢瀉を加える必要が

あります。

Aさんには、甘草附子湯+蒼朮・茯苓・沢瀉の

配合の処方の服用により、ほとんど気圧の変化が

あっても浮腫まなくなりました。

そして、手指のの痛み・痺れは、5/10レベルまで

軽減しています。

症状の変化と天気図・主に気圧の関係を、見ながら

次の一手を模索して行く事になります。

漢方 コラージュ

漢方研究会 コラージュ

代官山 東京

 

 

 

 

 

 

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